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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)184号 判決

大阪府池田市旭ケ丘一丁目三番三一号

原告

加茂守

右訴訟代理人弁理士

辻三郎

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人通商産業技官

松沢福三郎

山本格介

松木禎夫

同通商産業事務官

高野清

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者が求める裁判

一  原告

「特許庁が昭和六二年審判第一六三四九号事件について平成二年五月一五日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  原告の請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五七年一〇月二八日、名称を「卵容器」とする考案(以下、「本願考察」という。)について実用新案登録出願(昭和五七年実用新案登録願第一六三二九五号)をしたが、昭和六二年六月二九日拒絶査定がなされたので、同年九月一〇日査定不服の審判を請求し、昭和六二年審判第一六三四九号事件として審理された結果、平成二年五月一五日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年八月一日原告に送達された。

二  本願考案の要旨(別紙図面A参照)

身部A及び蓋部Bが薄肉合成樹脂の成形品であり、かつ、これら両部A、Bがそれらの一辺において揺動開閉自在に一体的に連設形成され、

これら身部A及び蓋部Bの相対向する複数箇所には、それぞれ、両部A、Bの閉鎖姿勢において卵保持用空間を形成するための凹部1a及び1bが、相隣る凹部1a、1a及び1b、1b間に隔壁2a及び2bが位置する状態に形成されている卵容器において、

前記身部A及び蓋部Bのいずれか一方の底壁8と外側壁とに連なる状態で、容器の長手方向の一端辺近くの部分に、前記相隣る凹部1a、1a又は1b、1bを連ねた平担面3が形成され、

この平担面には、所要事項自動読取用符号4が付されていること

を特徴とする、卵容器

三  審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は、前項記載のとおりである。

2  これに対し、本件出願前に日本国内において頒布された昭和四六年特許出願公告第三三五五一号公報(以下、「引用例」という。別紙図面B参照)には、身部及び蓋部が薄肉合成樹脂の成形品であり、かつ、これら両部が一辺において揺動開閉自在に一体的に連設形成され、これら両部の相対向する複数箇所には、それぞれ、両部の閉鎖姿勢において卵保持用空間を形成するための凹部が、相隣る凹部間に隔壁が位置する状態に形成され、前記蓋部の底壁と外側壁に連なる状態で、容器の長手方向及び短手方向の四端辺近くの部分に、前記相隣る凹部を連ねた平担面が形成され、この平担面にレツテルが付されている卵容器が記載されている。

3  そこで、本願考案と引用例記載の発明を対比すると、両者は、

「身部及び蓋部が薄肉合成樹脂の成形品であり、かつ、これら両部が一辺において揺動開閉自在に一体的に連設形成され、これら両部の相対向する複数箇所には、それぞれ、両部の閉鎖姿勢において卵保持用空間を形成するための凹部が、相隣る凹部間に隔壁が位置する状態に形成され、前記蓋部の底壁と外側壁に連なる状態で.容器の長手方向の一端辺近くの部分に、前記相隣る凹部を連ねた平担面が形成され、この平担面に表示が付されている、卵容器」

の構成である点において一致する。

しかしながら、両者は、平担面に付されている表示が、本願考案は所要事項自動読取用符号であるのに対し、引用例記載の発明はレツテルである点において相違する。

4  右相違点について判断する。

商品に付された所要事項読取用符号から発生される磁気等をレジスタにより検出して、自動的に所要事項を読み取ることは、本件出願前の周知技術である。

したがつて、本願考案は、引用例記載のレツテルを、自動読取りの便宜のために、周知である所要事項読取用符号に変更したにすぎず、格別の創意工夫を要しなかつたものというべきである。

なお、請求人(原告)は、「引用例記載のカバー12(蓋部)には、本願考案における凹部及び隔壁が形成されていない点において、両者の構造は相違する」と主張する。しかしながら、引用例記載のカバー12(蓋部)には溝18が形成されており、この溝18は本願考案の凹部及び隔壁に相当するものであるから、本願考案と引用例記載の発明は右構造の点において相違するものではない。仮に両者が右構造において相違するとしても、本願考案の凹部及び隔壁は、本願明細書等に従来技術として記載されているように本件出願前の周知技術であるから、右構造の相違は本願考案が進歩性を欠如するとの判断を左右しない。

5  以上のとおり、本願考案は、引用例記載の発明に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決は、引用例記載の技術内容を誤認して一致点の認定及び相違点の判断を誤つた結果、本願考案の進歩性を誤つて否定したものであつて、違法であるから、取り消されるべきである。

1  一致点の認定の誤り

a 審決は、本願考案と引用例記載の発明は、根隣る凹部間に隔壁が位置する点において一致する、と認定している。

しかしながら、引用例記載の卵容器には、卵どうしを隔離し、接触による損傷を防止するための、本願考案の隔壁2a、2bに相当する部材がないことは明らかであつて、審決の右認定は誤りである。

b 審決は、本願考案と引用例記載の発明は、蓋部の底壁と外側壁に連なる状態で容器の長手方向の一端辺近くの部分に相隣る凹部を連ねた平担面が形成されている点において一致する、と認定している。

しかしながら、本願考案は、POSマーク(以下、「バーコード」という。)の光学的読取りが可能なようにバーコードを卵容器の端部に平面的に貼付することと、卵を損傷や破損から保護し、卵を収容した状態で卵容器を上下に多数積み重ねられるようにして運搬や保管の容積を低減するという卵容器本来の機能を両立させるために創案されたものである。したがつて、本願考案の平担面3は、バーコードを印刷あるいは貼付するだけの面積があればよいから、卵容器の長手方向の一端辺近くの部分の、相隣る二つの凹部の関にのみ形成される、微小な面積のものである。このことは、本願明細書及び図面に示されている実施例の平担面が卵容器の相隣る二つの凹部の間にのみ形成されていること、及び、周知のバーコードが微小なものであることからも、疑いの余地がない。このように平担面3が微小なものである結果、本願考案の卵容器は、積み重ねたときに上の卵容器の凸部が下の卵容器の凹部に入り込み、容積低減の作用効果が奏される。

これに対し、引用例記載の発明は、卵容器の凹部中央の強度が弱く折れ曲がつてしまうことを防止するために、卵容器の上面全体にレツテルを貼付して補強することを技術的思想の核心とするものである。したがつて、引用例記載の平担面は、補強用レツテルが確実に貼付されるように、別紙図面Bに示す溝18を除き上面のほぼ全体にわたつて(少なぐとも、長手方向の全長にわたつて)、あるいは、飛び石状に形成されねばならない。しかしながら、平担面をそのように形成すると、卵容器を積み重ねたときに運搬時や保管時の容積が大きくなつて容積低減の作用効果を奏し得ない。

以上のとおり、本願考案の平担面と引用例記載の平担面は、技術的課題(目的)、構成及び作用効果のいずれもが異なるものであるから、一致点に関する審決の右認定も誤りである。

2  相違点の判断の誤り

審決は、商品に付された所要事項読取用符号から所要事項を自動的に読み取ることは周知技術であるから、本願考案は自動読取りの便宜のために引用例記載のレツテルを周知の所要事項読取用符号に変更したものにすぎない、と判断している。

しかしながら、工場生産商品に付されるソースマーキングとしてのバーコードならともかく、卵のように日持ちの悪い食品に付されるインストアマーキングとしてのバーコードは、本件出願前の周知技術ではない。そして、卵容器の上面全体に貼付する必要がある補強用レツテルを微小なバーコードに置き換えることは、当業者にとつてきわめて容易に想到し得た事項といい難いから、相違点に関する審決の判断は誤りである。

第三  請求の原因の認否、及び、被告の主張

一  請求の原因一ないし三は、認める。

二  同四は、争う。審決の認定及び判断は正当であつて、審決には原告が主張するような誤りはない。

1  一致点の認定について

a 原告は、引用例記載の卵容器には本願考案の隔壁2a、2bに相当する部材がない、と主張する。

しかしながら、引用例には、実施例について、「卵受容室14は一般的に云つて卵15を直立させ且つ離隔した状態に受容し且つ保持するよりな形状になされる」(第三欄第二六行ないし第二八行)「溝18は、カバー12が閉じているときカートン内の卵が互いに離隔維持されるのを助けるよう形成される」(同欄第三三行ないし第三五行)と記載されていることを参照すると、右実施例を示す別紙図面Bにおいて、符号14を付された箇所から上方へ伸びるハツチングを施された部分、及び、符号18を付された箇所から下方へ伸びるハツチングを施された部分が、相隣る凹部間に位置する状態に形成された隔壁の作用を果たす部分であることは明らかであるから、原告の右主張は失当である。

仮にそうでないとしても、個々の凹部間に隔壁を設けた卵容器は、本願明細書に従来技術として記載されており、また、昭和五二年実用新案登録出願公開第六四六六四号公報あるいは昭和五四年実用新案登録出願公開第四六六六九号公報にも記載されているように本件出願前の周知技術であるから、原告主張の点は本願考案が進歩性を有するか否かの判断を左右する事項ではない。

b 原告は、本願考案の平担面3が卵容器の長手方向の一端辺近くの部分の相隣る二つの凹部の間にのみ形成される微小な面積のものであるのに対し、引用例記載の平担面は補強用レツテルが確実に貼付されるように卵容器上面のほぼ全体にわたつて形成されるものである、と主張する。

しかしながら、本願考案は、その平担面が「相隣る二つの凹部間にのみ」形成されること、及び、「微小な面積」のものであることを要旨とするものではないから、容器の一端面に位置する二つの凹部の間のみでなく、他の箇所にも微小でない平担面を形成することを排除するものではない。したがつて、原告の右主張は考案の要旨に基づかないものであつて失当である(そもそも、「微小な面積」とはどの程度の大きさ以下のものをいうのかすら、明らかでない。)。そして、原告は、本願考案は平担面3が微小な面積のものであることによつて、卵容器を積み重ねたとき容積低減の効果もある、と主張するが、そのような作用効果は本件出願前の周知技術(例えば、前記の各実用新案登録出願公開公報を参照)によつても奏されることが明らきであつて、本願考案に特有の事項ではない。

また、引用例記載の発明において、補強用レツテルを卵容器の上面全体に貼付しなければならぬ必然性はないし、仮に補強用レツテルを容器の上面全体に貼付するとしても、レツテルを貼付するための平担面を容器の上面全体にわたつて形成しなければならぬ必然性もない。補強用レツテルを容器上面のどの範囲に形成すべきか、そして補強用レツテルを貼付するための平担面を容器上面のどの範囲に形成すべきかは、求める補強程度に応じて、適宜に決定し得る設計事項である。

2  相違点の判断について

原告は、卵のように日持ちの悪い食品にバーコードを付することは本件出願前の周知技術ではない、と主張する。

しかしながら、審決は、商品一般について、所要事項読取用符号から自動的に所要事項を読み取ることが本件出願前の周知技術であると説示しているのであるから、原告の右主張は、審決の説示に副わないものであつて失当である。

そして、原告は、卵容器の上面全体に貼付する必要がある補強用レツテルを微小なバーロードに置き換えることはきわめて容易に想到し得た事項ではない、と主張する。

しかしながら、引用例記載の補強用レツテルが卵容器の上面全体に貼付するものに限定される理由がないことは前記のとおりであるから、原告の右主張は誤つた前提に立つものであつて失当である。

第四  証拠関係

証拠関係は本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、同目録をここに引用する。

理由

第一  請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願考案の要旨)及び三(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第二  そこで、原告主張の審決の取消事由の当否を検討する。

一  成立に争いない甲第二号証(実用新案登録願書及び添付の明細書並びに図面)及び第五号証(昭和六二年一〇月八日付け手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が左記のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

1  技術的課題(目的)

本願考案は、流通過程において使用される卵容器に関する(明細書第二頁第七行ないし第一六行)。

このような卵容器は、材料を節約するため、第5図に示すように卵の外形にほぼ合わせて形成されるので、凹部1a'、1b'及び隔壁2a'、2b'がそのまま外面に現れ、容器の外表面には平担部がほとんど存在しない(同第二頁第一七行ないし第三頁第五行)。

しかるに、卵容器の外表面には、価格あるいは生産年月日などの事項を示す、所要事項自動読取用符号4'が付されるが、従来の卵容器では、凹凸の曲面に所要事項自動読取用符号4'を付さざるを得ない結果、自動読取りが不能または不正確になり、人間が逐一チエツクするほかなかつた(同第三頁第七行ないし第四頁第三行)。

本願考案の技術的課題(目的)は、卵を互いに接触しないように保持するという卵容器本来の機能を損うことなしに、所要事項の読取りを自動化でき、かつ自動読取り作業を容易に行い得るような卵容器を創案することである(同第四頁第四行ないし第八行)。

2  構成

本願考案は、右技術的課題(目的)を解決するために、その要旨とする実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したものである(手続補正書第三枚目第二行ないし第一七行)。

この構成の特徴は、身部Aあるいは蓋部Bいずれか一方の底壁8と、外側壁に連なる状態で、容器の長手方向の一端辺近くに、相隣る凹部1a、1a、又は1b、1bを連ねる平担面3を形成し、所要事項自動読取用符号4は右平担面3に付される点に存する(明細書第四頁第九行ないし第一五行、手続補正書第二枚目第七行ないし第一一行)。

別紙図面Aはその一実施例を示すものであつて、第1図は全体の平面図、第2図は斜視図、第3図は断面図、第4図は卵容器を積み重ねた状態を示す図である。なお、Aは身部、Bは蓋部、1a、1bは凹部、2a、2bは隔壁、3は平担面、4は所要事項自動読取用符号、5は紙様体、8は底壁である(明細書第九頁第三行ないし末行)。

3  作用効果

本願考案によれば、卵どうしの接触を防止するための隔壁を一部残す状態で平担面3を形成することにより、卵どうしを離間した状態で保持するという卵容器本来の機能を全うしながら、所要事項自動読取用符号4の自動読取りを正確に行うことができる。のみならず、平担面3を卵容器自体に形成するために、特別の材料を要せず、コスト的に有利である。なお、平担面が容器の長手方向の一端辺近くに形成されるので、所要事項自動読取用符号4の自動読取りの作業を容易に行うことができるとともに、第4図に示すように上下の卵容器の平担面3を互い達いに位置させれば、平担面3がはみ出した状態になつて、コンパクトに積み重ねることができる(同第四頁第一六行ないし第六頁第四行、第七頁末行ないし第八頁第六行)。

二  一方、引用例には名称を「レツテル付卵カートン」とする発明が記載されているが、原告は本願考案と引用例記載の発明の一致点に関する審決の認定を争うので、まず引用例記載の技術的事項を検討する。

成立に争いない甲第三号証(特許出願公告公報。別紙図面B参照)によれば、引用例記載の発明は、小売用に一ダースの卵を包装するカートン(以下、「卵容器」という。)は、各卵を隔離するポケツトあるいは区域を形成するために、卵容器の外表面に復数の凹部(溝)が形成され、曲げあるいは捩りに対する強度が劣化するとの知見に基づき(第一欄第三四行ないし第二欄第一九行)、卵容器の構造的強固性を増大することを主たる技術的課題(目的)として(第三欄初行ないし第三行)、「細長いくぼみを形成する上面を有しそして一つの縁に沿つて基部に枢着されたカバーと、前記くぼみを覆つてカバー上面のみを横切つて引伸ばされた熱可塑性のレツテルとを有するポリスチレンで作られた卵カートン」(第六欄第一七行ないし末行)を要旨とする構成を採用したものと認められる。

三  一致点の認定について

1  原告は、引用例記載の卵容器には本願考案の隔壁に相当する部材がない、と主張する。

しかしながら、前掲甲第三号証によれば、引用例には、実施例の構成として「カバー12はその外面から内向きに延びる溝18を形成し、全長の大部分にわたつて延びる。溝18は、カバー12が関じているときカートン内の卵が互いに離隔維持されるのを助けるよう形成される。」(第三欄第三一行ないし第三五行)と記載されていることが認められるから、別紙図面Bの図2において符号18を付された箇所から下方へ延びるハツチングを施された溝状の部分が、相隣る凹部間に形成された、容器長手方向の隔壁の作用を果たす部分であることは明らかである。また、右図2の符号14を付された箇所から上方にも、同様にハツチングを施された溝状の部分が描かれていることが認められるが、前掲甲第三号証によれば、引用例には「卵受容室14は一般的に云つて卵15を直立させ且つ離隔した状態に受容し且つ保持するような形状になされる。」(第三欄第二六行ないし第二八行)と記載されていることが認められるから、符号14を付された箇所から上方へ延びるハツチングを施された溝状の部分も、相隣る凹部間に形成された、容器長手方向の隔壁の作用を果たす部分であると考えられる。のみならず、別紙図面Bの図1において容器長手方向に六個並んだ卵受容室14卵の間は、容器短手方向に二個並んだ卵受容室14卵の間に見られる溝状のもの(右認定の、符号14を付された箇所から上方へ延びるハツチングを施された溝状の部分であることが明らかである。)と同様の溝状のものが描かれていることが認められるので、引用例記載の卵容器は、容器短手方向の相隣る凹部間にも、隔壁の作用を果たす部分をも備えていると認定するのが相当である。

したがつて、引用例記載の卵容器には本願考案の隔壁に相当する部材がないという原告の主張は失当である。

2  原告は、本願考案の平担面が卵容器の相隣る二つの凹部の間にのみ形成される微小な面積のものであるのに対し、引用例記載の平担面は卵容器の上面のほぼ全体にわたつて(少なくとも長手方向の全長にわたつて)あるいは飛び石状に形成されるものである、と主張する。

しかしながら、前記の本願考案の要旨によれば、本願考案はその平担面が「相隣る二つの凹部の間にのみ」形成される「微小な面積」のものであることを不可欠の要件とするものでないことが明らかである。のみならず、前掲甲第二号証あるいは第五号証を検討しても、本願明細書には、その平担面がどの程度の大きさのものをいうのか規定した記載は、全く存在しないことが認められる。

一方、前掲甲第三号証によれば、引用例記載のレツテルは、前記の発明の要旨から明らかなように、「くぼみを覆つて(中略)カバーの上面のみを横切つて引伸ばされ」(同第六欄第一九行及び第二〇行)ればよいのであつて、卵容器の上面全体に貼付されるものに限定されていない。まして、右レツテルな貼付するための平担面が、原告主張のように卵容器の上面のほぼ全体にわたつて(少なくとも長手方向の全長にわたつて)あるいは飛び石状に形成されねばならない必然性はなく、レツテルを貼付するための平担面を卵容器上面のどの範囲に形成すべきかは、所望の強度に応じて適宜に決定し得る設計事項というべきである。

この点について、原告は、本願考案はその平担面が相隣る二つの凹部の間にのみ形成される微小な面積のものであるため、卵容器を積み重ねたときに上の卵容器の凸部が下の卵容器の凹部に入り込み容積低減の作用効果が奏されるが、引用例記載の卵容器を積み重ねたときはそのような容積低減の作用効果を奏し得ない、と主張する。

しかしながら、本願考案がその平担面が「相隣る二つの凹部の間にのみ」形成される「微小な面積」のものであることを不可欠の要件とするものでないことは前記のとおりであるから、卵容器の相隣る三つ以上の凹部にわたつて形成される、必ずしも「微小な面積」のものといえない平担面も、本願考案が要旨とする平担面に含まれるといわねばならない。したがつて、卵容器を積み重ねたときに上の卵容器の凸部が下の卵容器の凹部に入り込み容積を低減し得るという作用効果は、本願発明が常に奏する作用効果ということができない(前記一3認定の本願明細書に記載された作用効果のうち、第4図に示すように卵容器をコンパクトに積み重ねることができるという点は、実施例記載のものが奏し得る作用効果にすぎない。)から、原告の右主張は本願考案の要旨に基づかないものであつて失当である。

したがつて、本願考案の平担面と引用例記載の平担面は、技術的課題(目的)、構成及び作用効果のいずれをも異にする、という原告の主張は採用することができない。

四  相違点の判断について

原告は、卵のように日持ちの悪い食品にインストアマーキングとしてのバーコードを付することは本件出願前の周知技術ではない、と主張する。

しかしながら、審決は、商品一般について、商品に付されたバーコードを自動的に読み取ることが本件出願前の周知技術であると説示しているのであるから、原告の右主張は審決の説示に副わないものである。そして、ソースマーキングとしてのバーコードが本件出願前の周知技術であつたことは原告も争わないとこる、これを日持ちの悪い食品に適用してインストアマーキングとすることに当業者にとつて何らかの困難があつたとは到底考えられない。

そして、原告は、卵容器の上面全体に貼付する必要がある補強用レツテルを微小なバーコードに置き換えることは当業者にとつてもきわめて容易に想到し得た事項といい難い、と主張する。

しかしながら、引用例記載の補強用レツテルが卵容器の上面全体に貼付されるものに限定される理由がないことは前記のとおりである。のみならず、前掲甲第三号証によれば、引用例には、従来の卵容器には印刷物を貼付し得る表面が存しないこと(第二欄第二一行ないし第二四行)、本発明によれば溝18上にレツテル20を放置することによつて広告文あるいはレツテルを貼付するに適した実質的に平らな面が形成されること(第五欄第七行ないし第一〇行)、レツテルは通常の装置で印刷され、卵容器には各種のレツテルが貼付されること(第五欄第二〇行ないし第六欄第三行)、本発明の卵容器は目を楽しませる外観を有すること(第六欄第七行ないし第九行)が、それぞれ記載されていることが認められる。すなわち、引用例記載の発明は前記のとおり卵容器の構造的強固性を増大すること(第三欄初行及び第二行)を主たる技術的課題(目的)とするものであるが、同時に、引用例には、その平担面が補強用レツテルのみならず種々の印刷物あるいは広告文などの貼付にも適するとの技術的思想が明確に開示されているのである。したがつて、引用例記載の補強用レツテルを周知の所要事項読取用符号に変更することには格別の創意工夫を要しなかつたとする審決の認定判断にも誤りはない。

五  以上のとおりであるから、本願考案は引用例記載の発明に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の認定及び判断は正当であつて、審決には原告が主張するような違法はない。

第三  よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 佐藤修市)

別紙図面A

〈省略〉

別紙図面B

〈省略〉

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